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思考は結論を急ぐ、現実は一概に言えない(前編)

思考は結論を急ぐ、現実は一概に言えない(前編)

AI危険論とAI礼賛論

「時代のテーマ、AI」と、丸山俊一は『AI以後:変貌するテクノロジーの危機と希望』の冒頭に書き留めた。「時に職を奪うと騒がれ、時に産業界導入への大きな期待や経済再生への夢が語られる」。AIは人間の職を奪う論は、AIへの素朴な敵対であり、AIが日本経済を浮上させるとの議論は、AIへの素朴な礼賛であり、どちらもシンプルかつ心に訴える立場であり、しかし、極端な思考だと言える。

『AI以後』は、ポストAIブームと言うべき著作であり、猫も杓子もとりあえず「AI」の掛け声に乗っておこうというような議論を脇に見ながら、哲学者や物理学者などにインタビューし、AIに関する冷静かつ多面的な知見を寄り集めている。インタビューを受けたのは、以下の四人だ。

イーロン・マスクとAIの安全学的研究への助成プログラムを立ち上げた宇宙物理学者のマックス・テグマーグ。自律的に道徳的判断を下せるようなソフトウェアを構築する倫理学者のウェンデル・ウォラック。哲学界隈では知らぬ者のいないダニエル・デネット。『ホール・アース・カタログ』の発行・編集や『WIRED』の創刊者でもあるケヴィン・ケリー。この並びは、個人的にはアツいものがある(余談だが、デネットが自分の論文を信じられないぐらい大雑把に要約するシーンにはニヤつかずにはいられなかった)。

ここで彼らの議論を総ざらいすることはできないが、同書から学ぶことのできることの一つは、彼らが共通して持っている、世に言うAI(人工知能)概念の大雑把さへの反感だ。昨今のAIに関する「掛け声」の多くは、モビリティ(移動に関わるもの)だからといって、自転車も、セグウェイも、飛行機も、自動車も、三輪車も、徒歩や乗馬も、十把一絡げに扱っている程度の繊細さしかないのだろう。

「思考は結論を急ぐ」

もちろん、すべてのAIに関する議論がそのようなものだと言いたいわけでもないし、『AI以後』の話題が上のものに限られるわけでもない。それに、今回のコラムはAIの話ではない。今回フォーカスを当てるのは、私たちが、真新しい出来事に対して何か説明をつけようとして、極端に飛びつき、大抵の場合それで事足れりとしてしまうときの、その心の動きだ。

アメリカの哲学者、ジョン・デューイは、『確実性の探究(The Quest for Certainty)』において「思考は結論を急ぎがちである」という趣旨の発言で、私たちの本性を要約している。私たちは、生き物として、不可解な状況や未知の状況に安心を抱くことが難しい。そして同時に、私たちは、安心するために何らかの拠り所を求めたり、未知の事象にそれらしい説明をつけようとしたりする。

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たとえば急に破裂音がしたら

 たとえば、夜自宅ですごしているとき、外から「パーン!」と破裂音が聞こえたとしよう。一瞬身構えたあとで、銃声かと思ったり、いや誰かの捨てたもの(ペットボトルとか)をトラックが踏みつぶしたのだと想像したりするだろう。あるいは、何であれ私に直接の危険はないと考えるかもしれない。そしてその後、音のした辺りを確認して、「あぁ、やっぱりそうか」と納得するということもありうる。

 ただし、いずれの場合も、自宅での安心した時間を切り裂くように生じた疑問――「あの破裂音は何だろうか? 果たして危険なものだろうか?」といった疑問が、どこか自分を不安定な状態に置いている。そして、その疑問に、さしあたりこれが結論だと思われる考えを差し向けて、事態を「解決」している点では共通している。上の思考の過程で、自己の心理は、不安定な状態から安定した状態へと変わっていることになる。

ジョン・デューイ

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%87%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%A4

丸山俊一『AI以後:変貌するテクノロジーの危機と希望』NHK新書

https://www.amazon.co.jp/dp/414088603X/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_ihWMDbKFAT6SH

ダニエル・デネット

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%80%E3%83%8B%E3%82%A8%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%87%E3%83%8D%E3%83%83%E3%83%88

全地球カタログ

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%A8%E5%9C%B0%E7%90%83%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%83%AD%E3%82%B0

ジョン・デューイ『デューイ著作集4 確実性の探求:知識と行為の関係についての研究』加賀裕郎訳

https://www.amazon.co.jp/dp/4130142046/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_cjWMDbBPPN5G3

後編に続く(2019/10/15 公開予定)

思考は結論を急ぐ、現実は一概に言えない(後編)

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